自彊術は、なぜ効くのか

自彊術のことを、語る前に、人はなぜ病気になるのかについて考えてみたい。

前述の「自彊術に思うところ」でも少し触れたが、人が病気になる大きな理由として、大脳が巨大である事と、それゆえの二足歩行という相互関係の、これら二点が挙げらると思う。

大脳が大きくなってしまったので、論理的思考が発達し、言葉と火が使えるようになった。それに加え二足歩行のため、手が器用に使えるようになり、ひいては我々人類は、壮大な文化を創造し、科学を探求するに至った。しかしながら、そんな動物としては不自然とも言える生き方の代償も大きい。戦争、犯罪、貧困、格差・・・などがそうである。

病気も人間社会にとって大きな問題の一つと言える。人間社会が抱える数多くの問題は、我々人間には様々な形のストレスとなり病気をつくる。例えば、何らかの 精神的(非物理的)ストレスによって自律神経が乱れ、そのゆえ消化器系が損なわれ、胃潰瘍になるなどは、分かりやすい代表例である。他の多くの病気もまた、似た機序を辿っているのである。

二足歩行もまた、我々人間にとっては、大きな物理的ストレスであり、心身に様々な不具合をもたらせやすい。例えば肩こり腰痛などは、それの最たる例と言えよう。また、二足歩行と加齢に伴う筋力低下で、どうしても姿勢やバランスが悪くなったり、動作も鈍くなりやすく、それらは自律神経の乱れに更に拍車を掛けることとなる。他の多くの整形外科疾患も、二足歩行との因果関係は否めない。

反して大脳の発達が人間と比べ大きく劣っている他の動物におては、文化や文明も持たずただただ自然と調和した生き方である。したがって人間が抱える社会問題などとは縁もゆかりも無い。動物界での病気の種類なども、人間の抱える膨大な数と比べると、極小と言える。野生動物に栄養学は無いが、肥満や糖尿病に苦しむシマウマなどはいない。彼らは、情報や知識が無くとも、何をどの程度摂食すれば良いのか、本能的に良く分かっているのである。我々人間も本来は同様である筈である。二足歩行に起因する不具合も言うまでもなく無い。さて、幸福度が高いのは、人間か動物かをここで問うのは、本題からずれるのであえて省いておく。

前置きが長くなったが、自彊術の話に移す。

自彊術が良く効く理由を問われると、頭でっかちで二足歩行の、動物として不自然な生き方の我々人間が、自彊術を行うことで、身も心も自然な状態にリセットしてくれるから、だと思っている。

我々は人間という動物であり、動物は自然と調和して暮らすのが、基本的には最もふさわしいという事は納得していただけるであろう。とは言え、我々の人間社会は情報などが複雑に溢れかえり、つい頭でっかちとなって生活せざるを得ない。したがって、定期的に心身を自然なあるべき状態に戻すリセットが必要となってくる。

自彊術の創作者中井房五郎氏は、少年期の四年間ほど、山奥でたった一人で生き延びた経験があることは、前述の通りである。そんな経験を通し、同氏は人間も本来動物としてあるべき自然な姿を、熟知していたと察する。中井氏はそれらの知識から、動物にとっては極自然な体を動かす方法を用いて、自彊術という自己療術を、世に送り込むことができたのでないかと思う。

時折、体を動かすことは苦手なので、自彊術はちょっと・・・と言う人がおられるが、何も速く走れとか、より遠くまで飛べと言うような、いわゆる運動ではない。例えば画家でさえも、筋肉や関節を動かして筆を操るのである。自彊術はそれの延長上にあると捉えていただきたい。自彊術を習慣的に行うことで、絵の腕前も上がるかもしれないと、投稿者は本気で思っている。私事で恐縮だが、妻の喘息がよくなったことは既にお伝え済みである。それに加え、実は彼女はヴァイオリンとヴィオラを弾く音楽家であるが、自彊術によって演奏が上達したと明言している。なんでも弓の扱いが上手くなったとの事である。

二足歩行に起因する不具合の予防のために、深層筋を鍛え関節を柔らかくし、美しい姿勢や体型と良いバランスを、獲得維持することも、自彊術の大きな役割である。そして、今や失いつつある、動物的感覚や本能的行動、あるいはインスピレーションや閃き、それらをも再獲得することをも、大いに期待できるのである。

自律神経失調症などにも、自彊術は非常に良く効くのであるが、詳しくは、投稿者が下手に述べなくとも、池見酉次郎著「自彊術ハンドブック」を、ぜひお読みいただきたい。池見氏は九州大学で日本で最初に心療内科を開いた、心身医学専門の医師であった(1999年没)。池見氏自ら自律神経失調症などで長年苦しみ、それを自彊術で克服した経験から、自らの臨床にも、自彊術を一本の大きな柱として、取り入れていた。昨今、自彊術を医療現場の臨床に取り入れているようなことは、心療内科も含めあらゆる医療機関においても、残念ながらそんな噂すら聞いた事がない。池見氏はきっとあの世で悲しんでいるに違いない。本当に残念なことである。

最後に、同書にある自彊術の効果のほどを、引用させていただき、このたびは筆を置きたいと思う。

以下のデータは、若干古いが1985年北京国際運動医学学術会議で、内閣府所管(公社)自彊術普及会が発表したものである。自彊術の効果率を各疾患別100名で示したものである。

狭心症・・・79%

腰痛症・・・76%

頭痛症・・・76%

慢性胃腸炎・・・72%

高血圧症・・・71%

自律神経失調症・・・70%

ひざ関節症・・・68%

慢性気管支炎・喘息・・・68%

肝炎・胆石・・・67%

アレルギー性疾患・・・66%

頚・肩・腕症・・・62%

糖尿病・・・62%

他、癌などに対しても、症例数は上記に比べ少ないが、概ね効果があったとの報告がされている。

このたびも、最後までお読みいただき、心から感謝を述べたい。次回もまた機会があれば、何かと掲載させていただきたいと思っている。また、ご質問やご意見などは、いつでも何なりと hidomo@gmail.com までお伝えいただきたい。

神 田 勝 久 拝